ネットでよく見る愚痴にあるもの。
「他社に決めたのでお断りしたら営業マンがキレた」
「すごい剣幕で怒鳴ってきた。本性が見えた」
「あんなメーカーに決めなくて良かった」
いや当たり前なんですが~
念のため言っておくと私自身はお客様にそういう態度を取ったことはありません。長い目で見れば、自社にそういう悪評が立つことは少しでも避けた方が良いと思っているからです。
でも本心を言えば「すみません」と言われても「すみませんで済むか?どうしてくれるんだ?あ?」くらい言いたい気分になりますね。そこで怒られないと思う方がよっぽど不思議なわけです。
その理由をこの記事では書いて行きますね。
契約にならなければタダ働き
そもそも1円でも払ってますか?
寧ろ貰ってばかりじゃないですか?
他社と競うということは、少なくとも提案を受けるところまではやってもらっているはずです。プラン提案は無料の業界になってしまっていますが、それを作る経費はどうやって捻出していると思いますか?
住宅メーカーを断るということは、そこまでやってもらった仕事の全てを無下にするのと同じです。お金を1円も払わず働かせるだけ働かせて、用が無くなったらさようなら。これで怒るなという方が無理があると思いませんか?普通怒るだろっていう。
そこで「違うメーカーで良い家を建てて下さいね」なんて言える人は、住宅業界全体で見ても相当な人格者ですね。私も努めて言うようにはしていますが、実際ははらわたが煮えくり返って、今すぐこいつの家に呪詛を書いた嫌がらせの手紙をぶち込んでやりたいくらいのことは思ってます。思うくらい許されるでしょう。
住宅業界は契約をすれば何千万円の売り上げ、何百万の利益を生むことができますが、契約にならなければゼロです。全てゼロ。経費分デカいマイナスです。今まであげたものも厚意も善意も全部返してくれ。お金も払ってくれ。頼む。
ですから、たくさん時間を使わされた人ほど契約になってもらわなければ困りますし、他社に流れでもしたらそれはもう感情的になりたくもなりますよね。
その他「断ったら物凄い食い下がられて迷惑だった」というような意見も見ますが、これも当然です。
営業マンは「他社にしました」と言われた時ほど滅茶苦茶に食い下がりますね。
考えてもみてください。そこで何もしなければ「契約にならない」という結果は変わらないのです。しかし、やれば心変わりをさせられるかもしれない。たとえ迷惑と思われても動きます。
それにそういうお客さんは押しまくって勝てば契約になる可能性が高い。そこで何百万もの違いが生まれるならやらない方が間抜けというもの。恥を承知で必死に「契約1」を取りに行きますとも。えぇ。
一度手放したお客には何の価値もないのが住宅業界
一般的に住宅メーカーで他決(※お客が他社に契約すること)が出ると、そのお客さんがそのメーカーに戻ってくることはありません。
これが化粧品や食材のような安価な物なら、「やめとくよ」と言われても「次またよろしくお願いします」ということができますよね?だから営業マンは心象を悪くするようなことは絶対に言いません。良いことをしてればそのお客さんが帰ってくる可能性は大いにあるからです。
一方住宅の場合、2棟目の家を建てる人自体少ないですし、建てるとしても何十年後ということがほとんどなので、そこでどれだけ良くしたところで同じお客さんが自分のところでも決めてくれる可能性は0%に限りなく近いです。
そもそも、他社を選んだということは自分のメーカーは軽んじられたということ。その後の建築でより密接な関係になっていく建築業者に2棟目以降も任せる可能性が高いですし、友人や親族の紹介も自分が住んでいる家を勧めることになるでしょう。
故に他決したお客さんが戻ってくることはありません。
新しいお客を連れてくることもほぼあり得ません。
こうなってくると、去って行くお客さんのことをハチャメチャに悪く言うことって、別にほとんどデメリットがないんですよ。決めてくれた人に良い顔をしておけば、そっちが太客となってそういったマイナスも十分取り返せます。力を抜くならここでしょう。だからやっちゃう人がいます。
今ではネットに晒されるというリスクがありますが、住宅メーカーの口コミはどこも悪口だらけで情報収集をする土壌では全くないため、割とどうでもいいです。木を隠すなら森の中という感じでしょうか。
総じて客に怒りをぶつけたい時に「一切我慢しない」という選択を取れる営業マンが一定数いるということは覚えておくと良いでしょう。
住宅営業マンにとって他決とは、客から受ける最悪の裏切り行為
そういう時、住宅営業マンも怒りたくて怒っているわけではありません。気持ちの整理がつかないことがほとんどです。
実際「この人良いお客さんだなぁ」とか「自分のメーカーを気に入ってくれているなぁ」と感じていて、それを根拠に「良い関係を築けるかも!」と思っていたらいきなり「あなたは1番じゃありませんでした」とその人に突き付けられる苦痛は、半端なものではありません。恋愛に近いものがありますね。
住宅営業という仕事は、一部の優秀な営業マンを除けば圧倒的に断られることの方が多い仕事です。多くの人は断られ慣れているとは言え、「この人こそは…」と思った人に消えて行かれるのは何度やってもしんどい。
あんなに仲良くお話ししたのに…あんなに一生懸命色々準備したのに…そんな気持ちばかりが湧き出てきてしまいます。
だから断られたのにどうしても忘れられない人とかいるんですよ。
もう断られたらその人に会うことなんて絶対にないんですけどね。その人は別のメーカーの営業マンと楽しく家作りをしているんですから。ムカついてきたな。
それでも時たま「良い人だったなぁ建てたかったなぁ」と思い返したくなってしまう出会いもあります。それはそれで幸せなことですが、心根は本当に複雑です。
そしてこういった出会いの中で、自分の感情との折り合いの付け方を大きく誤ってしまう人達がいます。そういう人達が、自分を裏切った人達に強い怒りをぶつけるという選択を取ってしまうことがあるのです。
これは決して褒められたことではありません。それは分かっていますが、断りを入れる時はそれくらいのことをしているんだと思ってほしいです。
ちなみに私の場合、そういう場に直面した際は、とにかく事務所で客の悪口を言いまくります。色んな人に聞いてもらって気を静めて次の打ち合わせを待ちます。
あなたは直接キレられるのと裏で悪口言われるの、どっちがイヤですか?人によりけりですかね。
まとめ
住宅営業はブラック仕事ですが、最もヤバいのは物理的な事情よりも精神的な事情です。
売れなければ存在価値がないので売れてない時は焦りますし、ずっと決められないと病んで行ってしまうことも多々あります。
お客さんとトラブルになったり、上司から叱られたり、現場が炎上して大変なことになったりと全ての間に挟まってサンドイッチのハムみたいな存在になってしまう。
そのきつすぎて心が折れてしまう状態の代表格が、お客さんに断られ続けるということかと思います。
身も蓋もないこと言えば「契約を取れないのはお前自身の責任だろう?と言われても仕方がないと思っています。ですが、そう簡単に心と周りの折り合いがつかず、成果を安定させられないのが営業マンという仕事です。
やってみれば分かりますよ。コンスタントにお客を取り続けるのがどれだけ難しいことなのかは。オススメはしませんけどね。
もし営業マンにぞんざいな態度を取られて嫌な思いをしたことがある人、これから家を検討し始める人は、この記事を読んで「住宅営業がどういう現場なのか」をよく考えてみて下さい。
きっとあなたの役に立つことでしょう。
よろしくお願い致します。